大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡家庭裁判所 昭和51年(少)85号 決定 1976年8月12日

少年 N・O(昭三一・八・一生)

主文

少年を昭和五一年八月一日から四か月間少年院に継続して収容する。

理由

一  本件は福岡少年院長から申請されたものであるが、その申請の要旨は以下のとおりである。即ち、

(1)  少年は昭和四九年二月一五日那覇家庭裁判所平良支部において傷害、器物毀棄保護事件について中等少年院送致決定を受け、同月二一日沖縄少年院に収容された。そして翌昭和五〇年八月四日同少年院を仮退院して沖縄保護観察所の保護観察に付されたが、ほとんど就労することなく毎日飲酒して深夜に帰宅する有様で、挙句には少年に注意を与える母や姉に暴力を振い、又担当保護司の指導にも従わなかつた。そこで少年に対しては昭和五一年一月二二日九州地方更生保護委員会から戻し収容の申請がなされ、少年は同年二月二日那覇家庭裁判所コザ支部において戻し収容の決定を受け、同月六日福岡少年院に収容されるに至つた。

(2)  少年は福岡少年院においては園芸科に編入され、現在二級上の処遇段階にあるが、現段階においては未だ社会復帰には十分とはいえない。しかも沖縄在住の母及び姉並びに大阪在住の実父とも少年の引受意欲に乏しい。そこで少年に対する矯正教育及び引受環境の調整期間を考慮して、少年が成人に達して戻し収容が終了する昭和五一年八月一日から以後七か月間の収容継続を申請するものである。

以上が本件申請の要旨である。

二  当裁判所の調査及び審判の結果によれば、上記申請要旨(1)記載の事実が概ね認められる(但し、少年が中等少年院送致決定を受けたのは那覇家庭裁判所平良支部ではなく、同裁判所コザ支部である。)。ところで本少年のように一度少年院送致決定を受け少年院において最高の処遇段階にまで達して仮退院を許された者が、新たな非行を犯したというのならともかく、仮退院中の遵守事項に違反したことを理由に犯罪者予防更生法四三条一項の戻し収容決定を受けた場合には、同条項が戻し収容を一定の期間と定めていること及び少年院法一一条八項の文理並びに一度施設内での矯正教育を仮りにとはいえ終了していることに照らし、原則としては戻し収容期間の終了をもつて少年を退院させるべきでありさらに収容継続することは避けなければならないと解される。

本少年の場合、戻し収容決定を受けたのは、上記認定のように沖縄少年院仮退院後しばらくしてからは職に就かず深夜まで飲酒して家族の者に対して暴力行為に及んだという点に帰因する。しかも当裁判所の調査によれば、仮退院直後に就職した勤め先を退職したのも飲酒の上での同僚との喧嘩を原因とするものであるから、少年の母が調査官に述べているように少年の問題点はいわば酒の一点につきると評価することができる。事実、当裁判所の調査によれば飲酒が不可能な少年院においては少年の成績は極めて優秀であり、現在福岡少年院において二級上という処遇段階にあるのは単に福岡少年院に収容されてからの期間が未だ六か月しか経過していないことにのみ由来すると認められる。

したがつて少年の場合には冒頭記載の原則に従い戻し収容期間終了と同時に退院させることも十分考えられるところである。しかし社会に出ると飲酒の機会が待ち受けていること、また当裁判所の調査で判明したように現在少年の保護者に少年を引受ける意欲がないことを考慮すると、少年には保護観察所、保護会等の協力の下に断酒ないし節度ある飲酒態度の習得及び適切な就職先の選択をして貰うことが肝要と思料される。そこでこのような社会内での関係機関の援助を得ることを主目的として例外的に、少年が成人に達して戻し収容が終了する昭和五一年八月一日から以後四か月間少年の収容を継続するのを相当と認め、少年院法一一条四項を準用して主文のとおり決定する。

なお関係執行機関にあつては上記のような趣旨を理解され、単に処遇の最高段階に至つていないことを理由に少年に対する仮退院の措置が遅れることのないよう配慮されたい。

(裁判官 岡光民雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例